ある築24年の分譲マンションで、機械式駐車場の「地下部分にある3台分のパレットにサビが出ている」として、管理会社から補修工事の提案がありました。提示された費用は550万円。このマンションの機械式駐車場は3階建て構造で、地上1階・中2階・地下1階にそれぞれパレットがあります。今回対象となったのは一番下、地下1階のパレット3台分でした。
この部分は構造上、車を出し入れする際にも目にすることのない“見えない場所”。住民が普段の生活でその実態を確認することは困難で、実際に工事が行われたかどうかすら確認しにくい場所です。
コロナ禍で理事会縮小、「理事長だけで進めてください」と…
当時は新型コロナウイルス感染症の拡大により、理事会の開催自体が制限されており、管理会社からは「集まらずに、理事長一人で対応してください」と依頼されていたとのことです。
実質的に、管理会社と理事長だけの判断で進められた経緯がありました。
当時の理事長は、「パレット3台分が丸ごと新品に交換される」と理解していたと語っています。
「それなら仕方ない」「550万円は高いが、新品3台なら妥当かも」と納得していたようです。
数年後、理事交代とともに“違和感”の声が…
数年が経過し、新しく理事に加わった住民たちが過去の議事録や工事記録を精査する中で、「実際には梁(はり)部分の交換のみ」だったことが判明します。
つまり、パレット全体の交換ではなく、部分的な補修に過ぎなかったのです。
現場が地下で見えないこともあり、工事後に誰も確認できないまま話が流れていたわけです。理事たちは「パレット新品だと思っていたのに、なんか見た目も変わってない」と違和感を抱き、当時の理事長に経緯を尋ねたところ、「自分は新品になると聞いていた」との返答が返ってきました。
書類には「梁交換」と記載、住民の“納得”はどこに?
工事記録や見積書には、たしかに「梁交換」と明記されており、「書面通りには実施された」ことは間違いありません。しかし、口頭での説明との間に重大な齟齬(そご)があったのです。
「理事長の聞き間違いだったのか?」「管理会社の説明があいまいだったのか?」――結局、真相は曖昧なままとなりました。
文句を言いたくても、「書類にはそう書いてある」と返されてしまうと、住民側はそれ以上何も言えなくなります。特に当時は理事長一人だけで対応していたため、誰も内容を“ダブルチェック”していなかったことが、この問題の根底にあります。
✅ この事例から学べること(教訓)
- 工事内容の「口頭説明」と「書類記載」が一致しているか確認を
→ 少しでも不明点があれば、必ず質問して納得するまで確認する。 - 工事の見積額に対して、「相場」「相見積もり」を取る意識を持つ
→ 特に目視確認できない場所の工事は注意が必要。 - 一人で判断を下さない
→ 非常時であっても他の理事と共有し、文書確認の機会を設ける工夫を。 - 「見えない場所」であることを言い訳にしない
→ 確認が困難な場所こそ、住民の代理である理事の目が必要。
「聞いていた話と違う」「でも書類にはちゃんと書いてある」
そのズレを見逃したまま進むと、何年後かに「あのときやっぱりおかしかった」と気づいても、もう取り返せません。
管理会社は常に“口では丁寧”です。
だからこそ、書類に書かれた事実と説明内容の「ズレ」を冷静に見抜く力が、理事には求められています。


